犬に甘酒

 私は飲み介な者だから、どうも甘いものは苦手で、正月などもお汁粉には手が出ず、もっぱら雑煮で2~3日過ごすことになる。
 ところがそんな私が、これまでの生涯で忘れることが出来ないほど美味しい甘味に感動したことを二度ほど体験している。
 
 その一つは、京都の祇園で食べた葛きりだ。
 かねがね死ぬまでにもう一度食べてみたいと思っているのだが、同じ感動を味わうことが出来るものなのかどうなのか。一期一会の味で、その時の陶然とした至福が蘇るかどうか分からない。その時は黒蜜を頼んだのだったが、白蜜葛きりもまた味わいが違って美味しいものらしい。
 私は美食家でもないので、味についてつまびらかに語る術もなく、その美味しさを上手くお伝えすることが出来ないのは残念でならない。しかし、食べ物の美味しさなどと言うものは、あくまでも主観的なものであると同時に、食べる際のシチュエーションによって味も変わるのではないかと思う。
 北海道で食べたジンギスカンが美味いからといって、それを同じものを取り寄せて食べてみても、こんなはずではなかった、というようなこともよくある話だ。

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 もう一つの美味しい甘味の話になる。
 私は30年来の不眠症で、睡眠剤を飲まなければ夜はほとんど眠れない。そんな時、夜中でもテレビをつけてぼんやりしているのだが、CMばかりが流されると嫌なので、NHKの教育テレビを見ている。
 そんなことをしていたある夜、あまりにも面白い大学教授の話しに、返って眼が覚めてしまいすっかり聞き入ってしまった。今から10年位前の事だ。
 NHK人間講座「発酵は力なり」という番組で、固定カメラに向かって口角泡を飛ばし、黒板に文字を書くチョークも力余ってボキッボキッと何本折れてしまったことか。
 その教授の名は小泉武夫さんという、東京農大の醗酵学の名物教授だった。
 学者というのは多かれ少なかれ、どこか浮世離れしている方が多いようだが、この小泉教授の講義は、フーテンの寅さん顔負けの口上である。最近の笑えないお笑い芸人などはとても足元にも及ばない面白さである。
 
 確か10日間位、毎晩楽しみに視聴していたのだが、ある日、甘酒をテーマに講義をされた。実は、この話を聞く前、私は甘酒をとても嫌っていた。
 母親が冬場になるとよく甘酒を造ってくれて、風邪を引かないようにと無理やり飲まされた思い出がある。ツーンと鼻にくる酒粕の酸っぱい臭いと、米粒の喉越しが気になって、茶碗一杯の甘酒を飲み干すのが辛かった。その思い出のせいか、初詣の出店などで売っている甘酒にも手を出したことがなかった。
 ところが、小泉教授の話を聞いて、その後著作も拝読し、酵素が生命の源であることに目を見張らされたと同時に、現在の100CLUBのRAW FOOD(生食)やサプリメント等の商品を生み出す大きな助けにもなった。不眠症の功徳と言えなくもない。
 ところで、私にとって二つ目の好みの甘味が甘酒になったのは、小泉教授がTV講義で甘酒の効能を熱く語られたことがきっかけで、酒粕抜きの、コメと麹だけで作られた甘酒を飲みだしたのだ。
 この天然の甘味が何とも優しい甘味であり、とても砂糖まみれの甘味とは全く異質なものだ。しかも身体にとても良い。
 
 以下は小泉教授の受け売りになる。


甘酒には、ブドウ糖が20%以上含まれ、人間が生きていくために不可欠なビタミン類が豊富に含まれている。麹菌が繁殖するときに、ビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、イノシトール、ビチオンなど、すべての天然型吸収ビタミン群を作って米麹に蓄積させ、それが甘酒に溶出されている。甘酒は、まさに総合ビタミンドリンクだ。
甘酒は天然の必須アミノ酸を最も多く含む飲物だ。米の表面はタンパク質が多く、そこに麹菌が増殖すると、タンパク質分解酵素を出して分解し、アミノ酸に変える。
病院で行われる点滴は、ブドウ糖溶液とビタミン溶液とアミノ酸溶液を血管から補給するものだから、これと同様の効果が得られる。
また、麹に由来する食物繊維とオリゴ糖が腸内環境を整えるので、便秘や肌荒れなどを予防・改善、体内の有害物質の排出に役立つ。この働きにより、甘酒は「ジャパニーズ・ヨーグルト」と呼ばれているほど。
さらに、ペプチド(たんぱく質を酵素で分解してできる物質)の一種である「アンギオテンシン変換酵素阻害物質」という物質は、天然の降圧剤と云われ本態性高血圧症の人に効果があるとも言われている。

 甘酒は俳句では夏の季語であり、とかく冬の飲み物だと思いがちだが、江戸時代には夏バテ対策として、売り歩かれていたのだという。
 私は身体への効能もさることながら、甘酒の持つ優しい甘味がとても好きで、特に夏場、冷蔵庫で冷やしたたり氷を入れたりした冷やし甘酒が絶品だと思っている。
 
 実はこのところ、米をはじめとする炭水化物を犬や猫たちが消化することが出来るのか否か、と言うことを考え続けていた。
 結論としては、犬や猫たちに炭水化物は必要のない栄養素であり、栄養効果もない。その理由は、炭水化物のデンプンを分解する酵素、アミラーゼを犬や猫たちが持っ ていないからに他ならない。
 しかし、どういう訳か市販のペッフードや手作り食では炭水化物を多用する傾向にあるようだ。或る、にわか手作り食の先生などは、お粥やおじやにしてしまえば消化は出来ますよ、などとシャラッと言ってのける始末である。
 消化という意味について、もう少しきちんと考えてものを言ってほしい。
 消化とは、腹こなれがいいとか言う話ではなく、食材を酵素の働きによって、様々な栄養素に分解する反応の事を言うのだ。
 
 米を米麹という微生物の働きによってデンプンも分解され、先述した通りの栄養素が生まれるのなら、人間ばかりでなく犬や猫たちにも甘酒の効能が発揮されるのではないだろうか。
 夏バテ気味の犬、老犬、老猫、食欲不振などなど。
 思い立ったが百年目だ。
 早速スタッフ犬に甘酒を振舞い始めた。
 大喜びで飲んでいるし、ヴェジタブルズ入り甘酒を生馬肉にぶっ掛けるといつもより食いがいい。
ただ、今のところ犬たちよりも私が飲んでいる量が圧倒的に多いため、今度は少し多めに買い込まねばならない、と思っている。

 
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