フード・ファディズムにご用心!

近頃、「健康」をキーワードとしたテレビ番組が軒並み高視聴率をあげていて、○○が身体にいい、などと放送すると、その食材がスーパーマーケットで売り切れ状態になってしまうというような現象が起っている。
また、○○でガンが治る、などという健康食品が薬事法違反や詐欺行為で続々摘発されているが、このような胡散臭い商品が雨後のたけのこのように出回っていて、アガリクスなどというものは、ガンを治すどころかむしろ進行させてしまうことが分かり、大手企業が商品を回収する羽目にも陥った。

このような病理的現象を心理学では「フード・ファディズム」と云われていて、「食」に対する不安を背景とし、その不安を煽り立てられることで、科学的根拠が希薄であるにもかかわらず、食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に信じたり評価することと定義されている。

そして、この「フード・ファディズム」という現象は、人間の食品に限らずペットフード業界にも蔓延しているのだ。

しばらく前から、岡山県の櫻井歯科クリニックの櫻井さんと犬の食餌についてメールのやり取りが続いている。櫻井さんはG・R、レオ君のオーナーで、ご家族こぞって大変な愛犬家だ。とりわけ食餌管理については歯科医さんであるところから、専門的な視点をもってかなり深い考察をされていて、私にとっても大変勉強になっているありがたい存在だ。
その櫻井さんから「病気にならない生き方」(新谷弘実著)を読んでみる事を060526book11薦められた。

著者は胃腸内視鏡学のパイオニアとして知られる方で、30万例以上の胃腸を検査してきた、その膨大な臨床結果にもとづいて、
「…手相や人相があるように、胃腸にも胃相、腸相というのがあり…」
 「…健康な人の胃腸は美しく、不健康な人の胃腸は美しくない。」
 「…良い胃相、腸相に大きな影響を与えるのは、その人の食歴と生活習慣である。」

といい、そして、この本のサブタイトルに「ミラクル・エンザイムが寿命を決める」とあるように、健康な「食」とはエンザイム(酵素)を摂取することだと述べている。
著者は、以前、本コラムの「目からウロコが…」でお話した食物酵素学理論の第一人者であるE・パウエル博士の学説に、ご自分の臨床例を重ね、エンザイム(酵素)が生命の源であることを説いているのだが、話はペットフードにも及び、犬や猫たちの健康にとっても、加熱加工したペットフードが様々な疾病の原因であるとも書かれている。

この本が読み終わると程なく、また櫻井さんから「犬と猫のための手作り食」(ドナルド・R・ストロンベック著)を薦められた。
この本の帯には、「忍び寄る環境汚染、添加物だらけのペットフード、ペットフードの食事と栄養についての真実が書かれた初めての書」とある。
著者はアメリカで40年以上の臨床体験を持つ獣医師で、訳者は私も2~3度お会いしたことのある獣医師の浦元進さんだ。
「…犬も猫も食べ物を狩りしていた間は完全食を食べていた。…」060526book21
 「…農業の発達に伴い、犬は穀類主体の食餌を与えられ…多くの欠乏症が起きた…」
 「…犬や猫にとって炭水化物は必要な栄養素ではない…炭水化物を与えると生理学的な異常や病気の兆候が現れてくる…」
 「…大豆や乳製品に含まれるガラクトシドは簡単に消化できず…腹部膨張、鼓腸症を引き起こす…」
等々、市販のペットフードに使われる肉骨粉などの劣悪な原材料や添加物に対する批判を述べ、犬や猫たちが要求する栄養成分量についても、医学、栄養学、生理学の見地からきわめて精緻に語られている。

そして、コンピュータプログラムにより栄養値が設計された手作りレシピも紹介されていて、これまで私が読んだ本の中では最も栄養学的に裏付けのある良心的な内容になっていると思う。

ただ、市販のペットフードを科学的根拠を持って痛烈に批判しているのだが、そこで薦める手作り食のレシピも、やはり肉食獣である犬や猫たちにとっては本来の食餌ではない代用食であるため、理論と実践の間に矛盾を感じてしまうところがあることは否めない。

また、この本にも書かれてあることだが、少しだけ私の解釈を加えるならば、ペットッフードなる飼料は米国科学アカデミーの米国学術研究会議National Research Council, NRC)の動物栄養委員会(Committee of Animal Nutrition)によって設計された推奨値に基づく。NRCは犬や猫たちの飼料についてのスタンダードを定めた唯一の組織である。

このスタンダードは1985年に改訂され、より厳格な規定が設けられたため、ペットフード業界はそれに従うことを避け、業界自らAAFCOAssociation of American Feed Control Officials)という組織を設立し、別なスタンダードを設けた。当然のことながら利益追求を命題とするペットフードメーカーは、NRCに比べきわめて甘い基準値を設計することになった。日本のペットフードメーカーもAAFCOに習い、ペットフード公正取引協議会という業者によって作られた組織があるが、宣伝文句のように本気で犬や猫たちの健康について考えているわけではなく、あくまでも業界の利益が優先されているのであって、AAFCOの基準値をより甘く踏襲しているに過ぎない。060526book31

このたび、研究熱心な櫻井さんに触発され、「食品の裏側」という本も読んでみたのだが、私たちの食品も食品添加物だらけの代物で、このところ体調も回復基調にあって食欲が出てきたところだったのに、またいっぺんに食欲がなくなってしまった。
人間の食事がこんな有様なのだから、そのまた食品廃棄物で作られているペットフードが、いかに恐ろしい食べ物か考えるまでもない。

櫻井さんのおかげでこのところ読んだ数冊の本によって、犬や猫たちが肉食獣であるからには人間の都合によって作られた代用食ではなく、草食動物を生のまま丸かじりすることが最も自然で理に叶った完全食なのだ、ということが改めて確信された。

 
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