危険な公園の散歩

 このごろ、いくら本を読んでも読んだそばから忘れてしまうので、どうせ読んでも仕方ないと思い積読本を整理していたら、30年ほど前、私の画廊で「丸木位里・俊 作品展」を開いたとき、俊さんからいただいた「女絵描きの誕生」という本が出てきました。

 丸木位里・俊さんご夫妻は、「原爆の図」「水俣の図」「アウシュビッツの図」など、平和への祈りを込めた金字塔とも言うべき作品群を制作された画家です。040720b1

 本の中に、俊さんと石牟礼道子さんとの初対面のいきさつが書かれていました。
お二人は、


 「毒ガス変じて農薬となる。農薬変じてベトナム枯葉作戦の毒薬となる。平和な村へくるときは除草剤に化ける。原爆もヘドロも水銀も、ひとつ穴のむじなですものね。」
「どこが頭やらしっぽやら、つかんでもおさえても、ぐにゃり、どろんと体をかわす、手におえぬ大化けものを退治しなくっちゃならないのです。息の根を止めるまで、わたしたちは死んではならないのです。」 (原文のまま)

 と話し合ったのです。

 久しぶりに読んだ俊さんの本がきっかけで、このたび石牟礼道子さんの「苦界浄土」、そしてレイチェル・カーソンの「沈黙の春」を再読することになり、多少とも呆けにブレーキが掛かったような気がしています。

 「苦界浄土」の一節に、水俣病の発生時、有機水銀に汚染された水俣湾の魚を食べた猫たちが、


「本症ノ発生ト同時ニ水俣地方ノ猫ニモ、コレニ似タ症状ヲオコスモノガアルコトガ住民ノ間ニ気ヅカレテイタガ本年ニハイッテ激増シ現在デハ同地方ニホトンド猫ノ姿ヲ見ナイトイウコトデアル。」
(熊本医学会雑誌・猫における観察より)

 と、書かれています。

 「沈黙の春」をお読みになった方は、自然環境を破壊し、人体生命を蝕む除草剤・殺虫剤など化学物質の乱用の恐怖について、切実な思いをお持ちのはずです。
vその一節には、ミシガン州デトロイトの公園の使用した殺虫剤によって、


 「獣医の報告によれば、犬猫病院は、急に病気になった犬や猫でいっぱいになってしまった……激しい下痢を起こし、吐いたり、痙攣を起こしたり。獣医もどうしていいのかわからず、なるべく犬や猫を外に出さないように、もしも、外にでたときには、足をよく洗ってやるといい、というのがせいぜいだった(でもおよそ無意味なことなのだ。……塩化炭化水素は……なかなか洗いとれない。)」(原文引用)

 とあります。

 これらの本を読み終えた後、思い立って東京都の公園課に連絡し、都立駒沢公園の、植え込みや芝生の維持管理がどのようになされているか、お話を伺ってみました。

 殺虫剤・除草剤の散布状況について知りたかったのです。
都の公園課の話によると、「殺虫剤はマラソン・スミチオンを使用し、散布する際には公園利用者に事前告知している。」と言いました。
私は、しょっちゅう駒沢公園に行っているけれど、そのような告知を見たことが無い、と言ったところ、「昨年の秋に決まったことで、殺虫剤の散布時期は春から行うため、事前告知については今年から始める。」ということでした。
除草剤については、「除草剤の散布は行っていない。」のですが、実はこのことも今年からの措置で、昨年までは散布していたということです。

 公園の芝生の維持管理に、除草剤の散布を行わないとすれば、芝生の雑草取りには大変な人手が必要になるわけですが、「そのようなことはコストが掛かるのでやりきれない。」、となると、公園の緑の芝生は、今年から雑草にまみれることになってしまうのだと思います。
いずれにしても昨年までは、おそらく全国の公園や街路樹に除草剤・殺虫剤などが大量に散布されていたことは事実であり、そのことの危険性について、これまで利用者に周知されることはなかったのです。

 水俣やデトロイトの犬や猫たちと同じことが、今、日本中で起こっているのではないだろうか。
そんな心配をするのは私だけなのでしょうか。

 
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