兎の故郷

私には、秋田に特別の想いがある。
昔、年4~5回は角館にあった美術館に仕事があって、当時は車で動いていたので、そのついでに興味をそそられた周辺の地域を走り回った。
30年も前の話で、そこには語り尽くせないほどの物語がぎっしり詰まっている。

ある時、そんな気まぐれな旅に興味を持った友人Oが一緒に行きたいということになった。その日は角館に向かう途中、鳴子温泉に一泊することになった。
深夜、私の隣の布団で寝ていたOが脳梗塞を発症した。救急車で古川市の病院に運んだが、翌日息を引き取ってしまった。
Oはすぐれた詩人であり大切な友だった。

秋田新幹線は盛岡を通過してから、以前の田沢湖線に重なるように秋田に向かうのだが、その途中、角館にも停車した。 
車窓から見える景色を一瞬たりとも見過ごすまいと目を凝らし続けていた。
雨のせいなのか、濁って水量の増した桧木内川を渡った。

このたび向かった三種町は、詩人、友川カズキの出身地である。
去年の12月30日に、このブログで友川カズキのことを書いた。その時は、まさか自分が三種町に出向くことになろうとは思いもよらなかった。
それが、この様な事に至った経緯、いきさつについては言えることもあり言えないこともあるのだが、短期間に激しく巻き起こった人間模様の中核には、友川カズキの存在が係わっているに違いないし、あえて言うならば、奇跡とも言って差し支えないこのたびの現象は、東北秋田の歴史、風土のもつ強力な磁場がもたらしたものだと考える。

7日の夜、宿泊したホテルに着くと、ロビーで友川カズキの作品「兎の故郷」が迎えてくれた。

 
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