ドキュメント「Born FREE」

映画「野生のエルザ」は、アカデミー音楽賞にもなったその主題曲も素晴らしいもので、数ある動物を扱った映画の中でも傑出した名画として鮮明に記憶に残っている。
昨夜、BBC制作、デイビット・アッテンボローによるドキュメントをみた。事実は小説より奇なりというが、事実を映画化したものであっても、そこに表わされたものはどうしても美化されたものにならざるを得ない。

このドキュメンタリーは、原作「野生のエルザ」(原題Born Free)を書いたジョイ・アダムソン亡き後、夫のジョージ・アダムソンの追憶をテーマとした作品である。
ケニアでライオンと共生する実話「Born Free」が映画化され時の人となったジョイは、そのライオンに噛み殺されたかのような偽装工作をされ、解雇した雇用人に殺害される。そしてジョージもまた、ライオンと共生することを危険視する住民とのトラブルがもとで殺害されてしまう。

ナチュラリストとして、ライオンをはじめとする肉食動物の保護を目的として、家族同様に飼育を実践し、今度はそれを野生に戻すというはなはだ困難な課題に命懸けで挑戦する姿は、奇跡のような愛情に満ちた行為であり、同時にその愛に呼応し、まるでペットの犬や猫のような態度で、ジョイやジョージに甘えるライオンの数々のシーンには目を見張るものがある。

それでも人口爆発によって、ライオンが自由に暮らせる生息範囲が急速に狭められ、人間とのトラブルが激増するようになる。
ロシアのアムールトラや、オオカミなどと同様に、今やほとんどの世界で肉食動物は絶滅の危機に瀕しているのが実情なのだ。

アダムソン夫妻は、肉食動物を危険視する人間と、肉食動物とも共生できることを証明し保護しなければならないという立場で闘った。そして獰猛と思われているライオンによって命を落としたのではなく、人間によって夫妻とも殺害されてしまったのだ。
映画「野生のエルザ」その後の物語は、かくのごとく壮絶な悲劇で幕を閉じることになったのである。
否応なく、様々な思いを想起させる示唆に満ちたドキュメンタリー作品であった。

 
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