水族館に猫が展示される

鳥羽水族館に猫が展示されたことが話題になっているという話を聞いた。

スナズリ猫という種でベンガル猫の系統だという。

浅い水溜りに生きた魚を放ち、それを捉えて食べている様子が動画で撮られている。

この猫は珍しくも、魚肉動物なのだという解説もある。


昔の話である。

光風会という洋画の会の大家であったS先生が、どうしてもランチュウが欲しいので金魚屋を紹介してくれないかと頼まれた。

そこで、私の知り合いのランチュウの繁殖所を紹介し、ある日S先生を連れて行った。


絵描きさんだから、美的感覚にも優れているのだろうと思うのだが、たくさんのランチュウが泳ぎまわっている水槽をしばらく眺めていて「これだ!」と、1匹の立派な雄のランチュウを指差した。

結局、雌も欲しいといことで、かなり高価なランチュウ2匹を購入し、おまけしますということで、やはり雄雌だという、おまけらしく、購入したランチュウに比べるとかなり見劣りする2匹と、合わせて4匹のランチュウを手に入れた。


金魚屋の帰り、私の車の助手席に座ったS先生は、ビニール袋に1匹ずつ分けられた高価なランチュウと、2匹一緒に入れられたおまけのランチュウの入ったビニール袋の3袋を大事な宝物を扱うように膝に乗せている姿はまるで子供のようだった。


その翌日のことだった。

画廊に着くとまもなくS先生から電話が入り、「やられちゃったよぉ~」と、泣き叫ぶかのような大声で、昨日購入したランチュウを用意していた水槽に収め悦に入っていたのだが、朝になって早速水槽を覗いてみたら、4匹泳いでいたランチュウが2匹になっていた。それも消えてなくなっていたのは高価で立派なランチュウの方だったのだと興奮気味に縷々語ったのだ。


私も、その騒ぎを電話で聞いただけでは済まされないと思い、すぐさまS先生のアトリエに駆けつけることになった。

アトリエに着くと、S先生は庭に据えられた水槽の傍らに呆然と立ち尽くしていた。

先生は「猫にやられたんだ!」と言った。

「野良猫ですか?」と私が聞いてみると「いやぁ~俺の猫なんだ」というので「さすが先生の猫ですねぇ。ちゃんと立派な方に狙いをつけるもんですねぇ」

そう言ってから、しまった!と思ったがもう遅い。

先生は地団太踏んで、今にも涙がこぼれそうに顔をしかめていた。

水槽には、おまけのランチュウ2匹が何事もなかったように悠々と泳いでいた。


かくのごとく、どんな猫でも魚を狙って食べるのであって、スナズリ猫だけが特別な訳ではないのだ。

英国では、魚を主体としたペットフードが主流であるという情報もある。

 
scroll-to-top