ブルセラ・フリーを目指して
このたびの体験によって、図らずも多くの事を学ぶ機会を持った。
今更ながらと、お恥ずかしい限りでもあるのだが、初めての体験である以上、単に知識や情報を得るだけに留まらず、犬を飼う人間としての資格をも問われるであろう事態に年甲斐もなく汲々とした日々を送っている。
これからの私がやらなければならない事は、この現実を出来るだけつまびらかに書き連ねていくことによって、多くの愛犬家の皆様が、このような悲惨な事態に遭遇する事のないような、健全なペット社会が実現するための一助となるべきであろうと思っている。
その肝となるべきは、ただ単に多くの情報をここに再録するのではなく、体験によって得られた新たな犬たちへの想い、そして人と犬や猫との関係のあるべき姿、社会について、これまでの思考を再構築する作業なのだとも思っている。
その第一は、やはり「ブルセラ・カニス」という人畜共通感染症について、私たちがどのように構えなければならないのだろうか。この点から考えていこうと思う。
まず、この疾病に関する膨大な情報の中から、とりわけ象徴的な公報として、関連行政の基本的な姿勢をとても分かり易く現したQ&Aを取り上げてみる。
犬のブルセラ症に関するQ&A <東京都福祉保健局健康安全部環境衛生課> |
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Q 1 | ブルセラ症の原因は何ですか? |
A | ブルセラ・カニス(Brucella canis;イヌ流産菌)という細菌です。 |
Q 2 | 犬から犬へは、どのような経路で感染しますか? |
A | 交尾や、流産時の汚物等によって汚染された餌、感染犬の尿、乳汁等を介して感染します。 |
Q 3 | 感染した犬はどのような症状を示しますか? |
A | 症状が出ないことも多くありますが、オスでは精巣炎や精巣上体炎(こう丸が固く腫れあがります)、メスでは胎盤炎、死産・流産などがみられます。 |
Q 4 | 犬から人へは、感染することがありますか? |
A | 感染した犬の死体、流産時の汚物等に直接接触した場合に、動物繁殖業者や獣医師が感染することがありますが、通常の生活では人への感染はまれです。 |
Q 5 | 人が感染した場合は、どのような症状を示しますか? |
A | 人に対しての病原性が弱いので発症することは少ないですが、発症した場合は発熱、悪寒、倦怠感など、風邪に似た症状を示します。人から人へは感染しないといわれています。 |
Q 6 | 感染した人や犬は、どのようにして治療するのですか? |
A | 人と犬のどちらにおいても、抗生物質が有効ですが長期投与が必要です。治療が不十分な場合は、再発することがあります。 |
Q 7 | 犬への感染は、どのように予防できますか? |
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Q 8 | 人への感染は、どのように予防できますか? |
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Q 9 | ブルセラ症の発生した店(ドッグラン、ペットホテルなど)を利用していましたが、 うちの犬に感染していないでしょうか? |
A | 感染した犬の尿、乳汁、流産時の汚物等に直接接触していなければ、感染の可能性は低いといえますが、御心配な場合は動物病院で受診してください。 |
Q10 | ブルセラ症の発生した店を利用していましたが、自分(人)に感染していないでし ょうか? |
A | 犬のブルセラ菌は人に対しての病原性が弱いので、発症することは少ないですが、風邪に似た症状があるなど御心配な場合は、病院で御相談ください。 |
Q11 | ブルセラ症に感染している(又は疑いのある)犬は、どのように管理すればよいでしょうか? |
A | 複数の犬を飼われている場合は、感染犬を他の犬から隔離して、飼養管理を行ってください。感染犬の尿や体液を扱う際は、手袋を使用して直接触れないようにし、付着した場合は消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒しましょう。他の犬との交配は行わないようにしてください。 |
Q12 | ブルセラ症に感染している(又は疑いのある)犬を飼い続けられないので、処分してもらえますか? |
A | 感染拡大を防ぎながら適切に管理すれば、飼い続けることができます。 どうしても飼養管理が難しいのであれば、治療が終わるまで動物病院に預けることもひとつの方法です。動物病院に御相談ください。 |
Q13 | 都で、犬のブルセラ症の感染状況調査が行われたことはありますか? |
A | 東京都動物愛護相談センターに収容された犬について、ブルセラ菌抗体保有状況調査及びブルセラ菌保有状況調査を行ったところ、下記の結果となりました。(抗体陽性であっても、菌を出しているとは限りません。) |
そして、2001年から2006年まで毎年100頭前後の収容犬の抗体検査を行い、少ない年で0%(2002年)最も多い年で8.8%(2004年)、平均5%前後の保有固体が確認されたと公表している。
このデータから、現在、日本で飼育されている犬の頭数は約1200万頭といわれているが、そこから推測すると、最低でも約60万頭の犬「ブルセラ・カニス」菌を保有している事になる。
お読み頂いた通り、東京都福祉保健局健康安全部環境衛生課では、この感染症に関しては注意を喚起するだけで、何ら根本的な対策を講じていない。因みに、家畜伝染病予防法においても、イヌブルセラ症は対象外とされている。
このように、ブルセラ・カニス症は、それほど危険な感染症ではないからと治外法権下に位置づけられている。つまり放任されている訳なのだが、いかに感染力が弱いとはいえヒトにも移る感染症をこのまま放置しているならば、感染は拡大の方向にしか向わないのではないか。いずれ変異して、人から人へも感染するような感染爆発(パンディミック)が起こる心配はないのだろうか。
このコラムをお読みいただいている方々の愛犬もブルセラ・カニス症なのかも知れないとしたら、それでもいい、と考えられるのか、心配だから抗体/抗原検査をしてみようと思われるのだろうか。
私は、このたびの体験をもって、この問題についていたずらに騒ぎを起こすつもりなど毛頭ないし、過剰に反応している訳でもない。
ただ、世界の工業先進国でありペット大国の日本が、人畜共通感染症に対し、行政として何の対策もしていないとしたら、日本のペット社会は欧米の先進国とは比べ物にならないくらいの後進性を示す証左となってしまうのではないかと心配するのである。
日本は狂犬病の清浄国でありながら、犬の命を脅かす狂犬病のワクチン接種には躍起になるのだが、ブルセラ・カニス症を撲滅するのは、方法論としてはそれほど難しくないのに何故か法制化しようとしない。
「ブルセラ・カニス」の抗体/抗原検査を義務づけ、その証明書のない犬の流通をストップする事。これが法制化されれば必ず「ブルセラ・カニス」は撲滅できる。
犬を飼おうとする方々も、その証明書を持たない犬は絶対に飼わないことにする。
実際に日本では、1970年代、牛のブルセラ症はこの方法によって清浄国となったのではないか。
近い将来、すべての愛犬家の皆様が、ブルセラ・フリーの証明書を持った健康な犬たちとの至福な生活が送れる事が出来るよう願うばかりだが、この考えに反対の愛犬家は恐らくいないはずだ。