宿命を背負った犬

 100LUBで永久スタッフの扱いになっているHから「ジュエル」が逝ってしまったと大泣き声で電話が入った。
 私も一瞬狼狽した。
 「ジュエル」は「馬肉で育った100の子たち」の#33にも掲載し、100CLUBのHPでもモデル犬になってもらっていた。

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 もともとHは、100CLUBが三軒茶屋にあった頃のお客様で、まだ犬を飼い始めて間もない頃だった。
 犬種はキャバリアで名前は「ジュエル」だった。
 この犬種は、人気があることで集中的に近親交配が行なわれた結果、遺伝性心臓疾患の発生率がきわめて高く、寿命も5年前後縮むという胸が痛むような報告がなされている。
 お客様だったHは、獣医師に心臓がどうのこうのだから手術をしなければならないと告げられ、悩みぬいていて私に相談を持ちかけたのだった。
 私は獣医師でもないし疾病の相談には応じることは出来ないが、私だったらどうするだろうか、と考えたことをHに話した。
 自分だったら現段階で手術は選択しない。キャバリアこのような致命的な遺伝的欠陥のある犬種を知らずに飼うことになってしまったのだが、そのことは今更つべこべ言っても始まらない。
 それにしても、現状では発症していない幼犬を、何故急いで手術をしなければならないのか、そこのところがまったく理解が出来ない。
 Hを通じ、その獣医師との会話を詳しく聞いてみてもどうしても理由が分からない。
 
 そこで私は、
 「そんな、何でもかんでも手術をしたがる、とんでも獣医の言うことなんか聴く必要はない。心臓は全部筋肉なのだから、筋肉力をつける目的で、徹底的に馬肉の生食で育てるべきだ。それで様子を見ながら手術の必要が生じたら、そのとき適切な獣医師を選択すればいいのではないか」
 たしか、その時そのようにHに助言をした。
 その直後、Hは100CLUBのスタッフとなり、現在でも永久スタッフとして絆を絶たないで、毎年忘年会や、旧スタッフとの集まりの幹事、そして時々、「ジュエル」や「雪の丞」との2ショットでHPに登場している。

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 「ジュエル」は10歳半で逝ってしまった。
 「犬種大図鑑」の著者、ブルース・フォーグルは「……キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは遺伝的な要因による心臓疾患により、通常の14年からせいぜい9年から10年に寿命が縮む……」と述べている。
 Hは「ジュエル」の飼育を私のアドバイス通りに10年もの間続けてきた。
 犬の飼い主としては非の打ち所がない。
 手術もせずにここまでやってきたことが良かったのか、手術をしていればもっと長生きできたのか?
 そこのところはよく分からないが、私のアドバイスを信じて愛犬の食餌管理をしているHのような方が、全国にたくさんいらっしゃる。
 その責任は重大で、このたびの結果は、Hの悲しみと少しも変わらない悲しみを背負うと同時に、課題も重くのしかかる事になった。

 
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