用賀から

例年より、開花時が早まるとの予想もあったが、用賀に越して以来寒い日が続き、界隈を散歩していると、街路の桜樹の花も2~3分咲きのままでいる。
このたびの移転は、お客様には大変迷惑を掛けすることになってしまい、お詫びの申し上げようもないのだが、せめて、必要とされる方のいらっしゃる限り、一から出直すつもりで精一杯頑張り続けてみようと思っている。

そんな折、ちょっと春めいたお知らせがある。

同じ世田谷の北沢に、D・O・Gという、犬たちの洋服や、しゃれたドッグカフェを併設した美容室を経営している矢島さんが見えて、100CLUBの生馬肉食の販売をやってみたい、という申し入れがあった。
私自身は、ペット業界については全く疎くて、矢島さんに北沢に連れて行かれるまで、迂闊にもD・O・Gさんの存在を知らなかった。ところが、100CLUBのスタッフの大平は、以前からD・O・G会員だったということを後に聞かされ驚いた。

当初、同じ犬たちを扱っている仕事にしても、ファッショナブルなD・O・Gさんと、馬肉一本やりの100CLUBでは、どうにも釣り合いが取れないのではないかという懸念を持った。
だが、100CLUBの一連のアイテムを開発した身としては、商品があまねく普及し、存続して欲しいと願うばかりで、その担い手が、いつまでも私ではあり得ないことは自明なのだから、矢島さんからの申し出を断る理由もない。
ましてや、矢島さんが、D・O・Gをスタートさせた理由と、その、犬への思いを伺うにつけ、むしろ、こちらからお願いしたいくらいのものだと悟った。ここに、その理由を詳らかにすることはできないが、人と犬たちが、何事かの理由によって運命的に出会うことになり、その人の生き様さえ変えてしまうことがある現実を改めて思い知らされることになった。
かくいう私もそんな一人であることは言うまでもない。
そんな出来事があって、このコラムがUPされる頃には、世田谷の北沢にあるD・O・Gさんのショップでも、100CLUBの商品を入手できることになり、その頃には桜も花開くのではないかと思っている。

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 ところで、犬や猫たちとの付き合い方については人それぞれで、どんな付き合い方が良いとか悪いとか一概には言い難いものがある。
しかし、その根本は、犬や猫たちに限らず、一木一草にいたるまで、あらゆる生命に対しどのように接しなければならないのか、という心の持ち様について、人としてあるべきスタンスは当然に共通しているであろうことは言わずもがなの話である。
そうしたことを前提とした時、犬や猫たちを飼育する上で最も重要なことは、私たち人間の特性との違いを十分に認識することであろうと思う。その特性を無視した時、犬や猫たちの生命には重大な危機がもたらされることになる。犬や猫たちと共に暮すうえで、少なからずトラブルになるその原因は、犬や猫たちの特性を無視した無神経な飼育、そして扱いがもたらす災禍なのだと思う。

なかでも、絶対に避けなければならないことは、あらゆる動物の中で、人間を人間たらしめている特性である、愛とかモラルを犬や猫たちの世界に持ち込むことである。
人間もまた哺乳動物であるからには、犬や猫たちと共通した行動パターンを持っているのだが、人間だけが持ち得ている言葉、そしてその言葉を駆使することで生まれた、愛とかモラルという価値意識を、犬や猫たちを相手に発揮することが過ぎると、実に話しがややこしくなってくる。
せっかく神仏のごとき動物と暮しながら、人間の修羅の世界に、なお、輪を掛けることになり、生活が混乱するような事態に陥ってしまうことさえある。

ペット先進国である欧米の精神の基本は二元論で、犬は犬、人は人という区分けがしっかりと根付いているのだが、一元論の日本においては、人も犬や猫たちも同じ生命であるからという、きわめて情緒的な捉え方をしてしまうところがあるような気がする。

私なども、偉そうなことは言えないところがある。
100CLUBのショップを移転するについては、巨大な冷凍室を分解し、新たなスペースに設置するという大仕事もあるのだが、何よりも、秋田犬やシェパード犬など、5頭のスタッフ犬を一緒に連れていかねばならないため、都内でそれを了解する貸し店舗など、容易に見つかるものではない。
特に、シェパード犬のレイは、引越しという異変を感じ取ったのか、1ヶ月ほど前から夜泣きをするようになってしまい、ショップの家主から夜中に苦情がくるようになった。駒沢での2年半の間、そんなことは無かったことなのに、よりによって、色んなことで頭がグシャグシャになっている渦中、一体レイをどうしたらいいのか、どんなに言って聞かせたところで分かるはずもないレイに
「おい!、虎や珀、みんなの様に、もう少しおとなしくしてくれよ。もしかするとお前を連れて行けないかもしれないぞ。」
「もし、他所に預けたりしたら、お前は気が狂ってしまうかもしれないなぁ。」
などと話しかけながらレイを見据えていると、常にも増して、犬とも思えない表情で甘えてくる。
ある時は、結局、二晩も息子がショップに泊り込むような事態にもなった。
いつまでもそうしておくわけには行かないので、仕方なく、仕事の帰りには家に連れ帰り、翌朝仕事に出る時には店に連れて行くしかない、という結論になった。
自転車通勤だったり、車での送り迎えだったりした。
移転先が決まるまで、レイとの3年ぶりの同居生活が始まった。甘えん坊であるところは全く変わらないのだが、とんでもなくその大きさは変わってしまい、狭い家の中で見ていると、その存在は圧巻だった。
レイは、同居が始まると、それまでのテンションと打って変わり、家ではワンとも言わず、家族の誰彼が動くとそれにつられてついて周り、風呂やトイレに這入った者を、ドアの手前に横たわって、いつまででも待ち続けている。家族がそれぞれ個別の部屋で寝るとレイが落ち着かないので、毎晩、家族3人が一部屋に集まってレイを交えて寝た。そんな、まるでストーカーのような犬となったレイには、問題解決までの間、悩み抜いた私たち家族の思いは何も伝わってはいないだろう。それどころか、自宅に暮したおよそ3週間、わが世の春を満喫したかのような風情が伝わってきた。
そんなレイも、今は用賀のショップで落ち着いている。

大騒ぎの連続だったこのたびのショップの移転について、多くの方にご迷惑、ご心配をお掛けすることになってしまったのだが、また、お励ましも頂いた。
北海道にお住まいのお客様、Mさんもそのお一人で、いただいたメールに大変勇励まされた。
そして、そのご住所から、お住まいの環境に興味がわいて、失礼かとは思ったのだがGoogleの衛星写真で見てみると、素晴らしい大自然の只中にお住まいのご様子が分かった。

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 このところのドタバタで、心身ともにふらふらになっていたところ、Mさんが犬たちと暮す生活振りが連想され、何と羨ましいことだろうかと感じ入った。
お礼のメールを差し上げたら、Mさんから、このコラムに掲載することになった、2月の雪の中を走り回って遊ぶ2頭の犬たちの写真が送られてきた。
もう、何にも言うことがない・・・・・・・。

 
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