ネット検索でいかれてしまった。

ショップに出てきて、さぁ仕事に取り掛かろうとする、その直前、気持ちを落ち着かせようと思い何気なくというか、ふと東北の伝統こけしが頭によぎってパソコンで検索を始めたところ、3時間もそのことから離れられなくなり頭がボーッとなってしまい目もかすんでしまった。

はるか昔の話になるが、一時、伝統こけし集めに夢中になっていたことがある。
今でもその際に集めたコレクションの一部が玄関の下駄箱の上棚に並んでいる。それが自分の癖なのかも知れないが、一つのことに夢中になるとちょっとやそっとではブレーキが利かなくなってしまう。
マニアというのは精神病のひとつなのだそうで、そういう意味からすると私は病気なのだろう。

今日3時間も調べまくっていたのは、数あるこけしの中でも私が最も好きな遠刈田系のこけしの工人、故佐藤丑蔵という人のこけしで、写真で見るだけでものどから手が出るほど欲しくなるようなものが数点あった。
今は昔と違い、ちゃんとブレーキが利くというか、そもそも突っ走れないのだからブレーキなど端から必要はない。

それにしてもインターネットという道具は、ひとつ使い方を間違うと頭がパーになってしまうものだと、ちょっと恐ろしい思いをした。
伝統こけしの情報が際限もなく飛び込んできて、そこには単に情報に過ぎず、疲れ果ててしまった後には何も残っていない。残っているのはあまり体験のなかった空虚な疲労感だけで、丑蔵のこけしの顔の残像すらなかった。

以前はこけしを集めるために、何回も東北を訪ねた。そこには語り尽くせないほどたくさんの思い出が詰まっている。
今日はたった3時間で、その時より多くのこけしを見ることはできたのだが、それがどうしたのだということになるとその答えは何もない。無機質で索漠とした思いのほか実感がない。

そんな気持ちを長引かせたくないので、いつもとは逆に私のほうから「雪之丞」を抱き寄せた。
いったい何があったのかと、怪訝な様子でこちらを直視してくれなかった。

 
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