ある犬養いの話

家からショップへの往き返りにお客様でもあるSさんが、下半身に障害を持ってしまった愛犬ビスを散歩に連れ歩く姿をいつも見ていた。
胸が詰まる思いもしていたのだが、それ以上に、Sさんの病めるビスに対する介護の姿勢に敬服するばかりだった。
Sさんは私より数歳年上の女性だから、おそらく74,5歳になるのだと思うが、そのおばあちゃんが大のシェパード好きで、このビスも何代目かのシェパードになるのだと聞いている。

このような大型犬が下半身に障害を持った場合、寝たきりにしておいたならその寿命を永らえることは出来ない。
このように補助輪を装着し、前足だけの散歩でも外気に触れさせ歩かせることがとても重要な介護のポイントになる。
Sさんは補助輪をアメリカから購入し、毎日ビスを連れ歩き完璧な介護を続けたのだ。

そして、およそ半年前にビスは逝ってしまったのだが、Sさんはビスの生前から柴犬を飼い始めていて、今は「大ちゃん、大ちゃん」とその名を呼びながら毎日いつものように犬と散歩をしていて、週に一度くらいショップに見え「大ちゃん」のご飯を買われていく。
昨日、ようやくビスの写真を持って来られたので、早速紹介させて頂いた。

Sさんは
「大ちゃんが元気なうちにぁ、あたしゃぁ死ねないよぉ。がははっぁー」
と大口を開けて豪快に笑う。
私は、陰でSさんに「がはは本舗」というあだ名をつけているのだが、犬養いとしての立派な姿に対しては最大の賛辞を捧げたいと思っている。

 
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