生馬肉食のシェパード犬

 昨秋、ショップが移転した駒沢公園通りは、別名ドッグストリートと呼ばれている。たぶんメディアによるネーミングだと思うのだが、通りに面して犬たち関係のショップが数多く立ち並んでいる。
先日、近くの食堂に行ったところ、「馬肉のトマト煮」というメニューが目に留まりオーダーしたところ、これは犬用のメニューです、と言われ驚いてしまった。
犬や猫たちにとって最適な食餌が、ペットフードでなく生馬肉食を用いることであることを言い出した身としては、これほど馬肉が普及したことに面映くも感慨深いものを感じた。

昨年の初め、Oさんからシェパード犬を生馬肉食で育ててみたい、というお話しがあって、私にも一頭のシェパードの仔犬が託された。このいきさつについては以前「ハリケーン・レイ」に書いた。

そのOさんから、Oさんが生馬肉食で育てたシェパード犬の成果を知らせるお手紙が来たのでそのまま紹介する。

 

ビオカ V ヒロカシマ (牝)  ’05.11.30
’06.4 日本チャンピオン展 準プリンセス(特牝)
’06.10 東日本ジーガー展  ジーゲリン(単独)(幼A)
’06.11 日本ジーガー展   ジーゲリン( G )(幼A)
 
前進欲、集中力、歩容の安定性抜群!
気力、はちきれんばかりの元気の良さ、他の犬達を圧倒している。
生後50日から100CLUBの生馬肉育ち  現在13ヶ月。
 
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 Oさんが、日頃シェパード犬作りに懸ける情熱には頭の下がる思いでいっぱいだ。お手紙から察するに、そのOさんが行った生馬肉食による食餌管理は成功し、展覧会での成績も満足のいく結果だったのだと思う。
ところが、Oさんの熱情はそこに留まらず、もう一頭の生馬肉食のシェパード犬「レイ」のことが気になるようで、昨年12月、カメラを携えて「レイ」に会いに来られた。
下の写真は、そのときOさんが撮影したものだ。

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 Oさん曰く、「レイくんは素晴らしい!このまま埋もれさせておくのはもったいないから、来年4月の展覧会に是非出場させるべきだ。そのためには訓練所に預けショードッグにふさわしい訓練を入れるべきだ。」と言われた。

昨年、Oさんから「レイ」を授けられたことは、私にとって地獄で仏に出逢った様なものだった。
生後35日の「レイ」が現れたときの私は、腎臓病が悪化の一途をたどっており、食欲も落ちて、体はむくんで靴も履けなくなり歩くこともままならないような状態だった。仕事に出かけることも適わずずっと家でゴロゴロしていたのだが、却ってこの環境は仔犬の「レイ」の面倒を見ることにおいては好都合だったともいえる。
シェパード犬の犬育ては初めてだが、もっぱら大型犬を扱ってきた体験上なんら問題ないと思えた。ところが、そんな甘いもではないことが「レイ」の成長につれて露わになってきた。
とにかく、甘えるにしてもいたずらするにしても、そのスケールと濃さが半端ではない。その上、私から片時も離れようとしない。ついにこれ以上自宅で飼育することは不可能と判断したことと、いよいよ私も人工透析の導入に至り、一日おきに家を空けなければならないことになったため、2ヶ月半の「レイ」との生活に区切りをつけ事務所の先住犬たちの群れの中に入れることになった。

「レイ」の飼育について、この段階で私の役目は終わり、後はスタッフが面倒を見ればいいと考えていたのだが、とてもそんなわけにはいかない事態が発生した。

私の体調も、何とか人並みの半分くらいの生活が可能となり事務所にも出られるようになったのだが、先住犬との間では何の問題も起こらなかった「レイ」が、私が事務所に出入りするたびに巻き起こす気も狂わんばかりの喜びと悲しみを体現する様は、これまであまたの犬を育ててきた私にとっても初めての体験だった。四六時中、私から離れようとせず、私は私でそんな「レイ」がなんとも愛らしくて堪らず、日がな一日愛撫している始末で、とどのつまり、去年は「レイ」に一年中耽溺することになってしまった。

私に残された余命がどのくらいか分からないが、今、私は「レイ」というシェパード犬とこれからも徹底的に付き合っていかねばならないと思っている。何故なら、去年、病気になったことで一級の障害者となり、仕事からも離れざるを得ないと決め込んでいた私を、もう一度仕事の場に引っ張り出してくれたのは「レイ」の存在に他ならないからだ。その「レイ」とできる限りの時間一緒に居てあげたい。そして出来ることならば「レイ」を看取るまでは生きてみたいと決意している。

そんな「レイ」を授けてくれた大恩あるOさんからのお薦めである以上、展覧会には出してみようと思っている。しかし、肝心の矯正訓練のためとはいえ、どうしても訓練場に預ける決心がつかない。
「レイ」が、新たな環境の変化に耐えられるのだろうか。いや、もしかすると私が耐えられないかもしれない。食餌にしても現在の管理状態を維持、継続できるのだろうか。
Oさんからの申し出について、結論を出すのに数日間、悩みに悩み抜くことになってしまった。
そして、あれこれと考えた、と言うより、多分に感情を優先した選択にならざるを得なかった結論は次の通りである。

Oさんに薦められた通り、「レイ」を展覧会に出場させてみようと決めた。
ただし、そのための矯正訓練は他所に預けることなく、私とスタッフの佐藤でやっていこう。
そして、出来る限りのことをやって、その結果、スタンダードから外れていても、審査結果がビリであろうとも全然かまわない。
生馬肉食でこれほど立派にシェパード犬が育つことについては誰の目にも明らかだと思うからだ。

 
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