人は犬のしもべ?

自らを「犬馬鹿」といってはばからない文芸評論家の江藤淳がその随筆で面白いことを書いていた。

5代将軍綱吉の殺生禁断令のことで、最初は何てくだらないことする殿様なんだろうと大いに不思議がった。
ところが自分がコッカー・スパニエルの「ダーキィ」嬢を飼ってから綱吉将軍に同情したい気持ちになったというのだ。

いったい、権力の頂点にいて奉仕されるばかりでなにものにも奉仕できないということほど退屈なものは無いだろう。
確かに天は将軍家の上に人をつくらない。しかし犬をつくらないとは云ってはいないではないか。
よし、俺は犬に奉仕しよう。犬こそは絶対権力者であり、自分はそのしもべである。
いわんや士農工商、四民はことごとく犬のしもべである。犬を尊び、犬を敬え。いや「お犬様」というがよい。

綱吉の心境たるやまことに察するに余りある。

江藤も「ダーキィ」嬢のしもべとして「犬と私」という随筆集をものにした。

 
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