リ・スタート!

先日、店番をしていたら、
「うちの子は、シェルティーなんですけど、こちらのフードはシェルティーにも合いますか?」
と尋ねられ、一瞬何を聞かれているのか戸惑ってしまった。
よくよく聞いてみると、ダックスやチワワなどの人気犬種には専用のフードが販売されているけれど、シェルティーは人気犬種ではないため、専用フードがなく困っている。娘さんには、専用のフードのある犬種が欲しいと駄々をこねられる始末なのだと言う。
情けない事に、私は、その様な、犬種によって異なるペットフードの存在は知らなかったし、お客様が余りにも真剣に尋ねられるので、思わず噴出しそうになってしまった。
それから一時間あまり、どんな犬種であろうとも、猫たちでもフェレットでも、生馬肉食が最適な食餌であることを説明し、ご納得いただいた。

犬や猫たちの飼育に関しては、昔から、このような不思議な話は山ほどあって、そんなトンデモ話を集めたら、一冊の面白い本が出来上がるのではないかと思っている。
かの愛犬王、平岩米吉も、ノーベル賞を授与されたローレンツも、その著作には誤りがあり、後者の場合、自身でその誤りを認め改筆までしている。
時代をさかのぼれば、このような人までが犬たちの飼育に誤った考え方をしている例もあるくらいだから、これが、ただの犬キチレベルだと、実に珍妙な理屈がまかり通っているのが犬の世界なのであり、それがまた商売にもなってしまうところが許しがたいところでもある。

外国産の名犬を輸入し、日本でブリーディングを進めて行くと、大型犬が徐々に小型化してしまうことは、ブリーダー仲間ではよく知られている事なのだが、その理由については、昔から多くのトンデモ話が広まっている。
一つの例を言えば、犬は足の裏からカルシウム成分を吸収するのだから、日本の土が悪いのだ、と断言する人がいる。植木じゃあるまいし、まさか、こんな話をまともに聞く人はいないだろうと思うと、それが、相当数の方に信じられている。
水が悪いのではないか、という説を唱える人もいて、水に拘りまくっている人も大勢いいる。
昔のことだったから、このようなトンデモ話が広まったのだろうと思われるかも知れないが、昨今のインターネットによって溢れる情報を見ていると、昔話などと笑い過ごしていられないほどトンデモ話の花盛りだ。
このようなことが起こるのは、犬に魅了され、客観的視点を失ってしまうことによるのだと思う。
その結果、被害をこうむるのは犬たちそのものであり、必然的に飼い主さんも悲惨な目に合うことになってしまう。

そんなことがあった翌日には、股関節形成不全、膿皮症、アレルギーの子たちが、当たり前だが飼い主さんと一緒に来店した。
100CLUBは犬猫病院ではないのだが、お話を聞いていると胸が詰まるような、内心、暗澹たる気持ちになる。
股関節形成不全の場合、手術をする以外に完治の方法は無いのだが、その前に 100CLUBのフード、サプリメントを試してみてはどうか。そうすることで手術を避けられるのではないかと獣医さんに薦められてきたという方もいた。
何でもかんでも手術を薦める獣医さんばかりでなく、ちゃんとした見識を持っている獣医さんもいらっしゃることに感銘を受けた。

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 100CLUBでの仕事において、犬や猫たちにとって理想の食餌と何か、という命題は、自分なりに相当高いハードルだった。そして、これまで誰もやってこなかった生馬肉食を商品化しこれまで続けてきたのだが、私は、もう、ボロボロに疲れ果ててしまった。
また、私がたった一人で始めた生馬肉食も、今ではたくさんの販売業者が存在する。
しかし、だからといって100CLUBを止めてしまったら、この日、相談に来た人たち、そして犬たちはどうなってしまうのだろうか。100CLUBのフードで育っている子たち、それに、100CLUBの犬どもは……
この半年余り、そんなこと、あんなことを鬱々と考え続けていた。

仕事を継続していくにはどのような方策があるのか、空っぽの頭を、それなりにフル回転して考え尽くしてきた。
その結果、現在の駒沢の店舗を、用賀に移し、出来る限りスリム化することで何とか継続が可能となるのではないか、という結論に達した。
これからも商品の提供を継続していくためには、仕事の間口を小さくして、見てくれなどどうでも良いから、商品の品質の維持、向上、安全性の確保、そして何よりも安定供給を旨とし、100CLUBの存在が求められる限り、愚直に、そして黙々と仕事を続けていかねばならない。
残された道はこれしかない。

三軒茶屋にスタートし、駒沢に移り、そして今度は用賀に移ることになる。
インターネット通販のお客様にショップの移転は余り関係ないことにしても、ショップにお見えいただいているお客様には、そうすることで近くなる方もいらっしゃるが、ご不便をお掛けする方もいる。
このたびの決断の理由は、100CLUBはどこまでも存続しなければならない、という思い以外、余念は何もなく、その思いは、私の生命が絶えたとしても後継者によって存続されなければならないものだと考えてもいる。

 
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