ウリ坊に会う

このところ、毎週のように群馬県の神戸(ごうど)という所に出掛け、缶詰づくりに勤しんでいる。
先日、缶詰工場に行くと、その庭先にケージに入れられた3頭のウリ坊がいた。母イノシシからはぐれ、側溝に落ちていたウリ坊を見つけた人から、ウリ坊を育てられるのはこの人しかいない、とのご指名があり届けられたのだと聞いた。その、この人しかいない小野寺さんは、すでに6頭のイノシシを別の場所で飼っていて、この3頭のウリ坊を飼うことになると、合計9頭のイノシシをペットにすることになる。犬も可愛いが、野生のイノシシも飼ってみれば何も変わるところがない、と小野寺さんは言う。

080616a1 この3頭のウリ坊は生後2ヶ月くらいで、野生動物がこの時期、親から離れてしまうと育てることはなかなか難しいそうで、ドッグフードが最も適した食餌とのことだ。ドッグフードを与える理由は、それに含まれる抗生物質が有効で、抗生物質を与えないとすぐに死んでしまうと言うのだ。
これは私が思うに、母親から授乳することで、免疫力を高めつつある時期に乳離れしてしまったことで自己治癒力がないため、まだ細菌感染に対抗できず、抗生剤に頼らねばならないということなのだろう。
それにしても、ドッグフードに抗生物質が添加されているということについて、私自身は確たる裏付けを持っているわけではないが、これまでにウリ坊を何頭も育て上げている方の体験談である以上、このことは傾聴に値する情報だと思う。
しかし、ドッグフードに含まれる抗生物質でウリ坊は上手く育てることが出来たとしても、それを毎日食べている犬たちはどんなことになるのだろうか。ちょっと考えただけでも寒気をおぼえる話ではないか。

缶詰工場の前方には、初夏の、したたる緑を切り裂くように渡良瀬川の渓流が奔っている。そして、ここから10Kmほど上流には、日本の公害問題の原点とも言える足尾鉱毒事件の元凶となった銅山がある。
渡良瀬川は、「渡良瀬橋」という歌のようなロマンチックな川ではなく、一時期、鉱毒によって汚染され魚一匹も住めない川となり、渡良瀬川から利根川、そして霞ヶ浦に至るまで、その下流域一帯の農地を汚染し稲も立ち枯れた。
その激甚被害は、多くの農民を塗炭の苦しみに追いやった。
この事件は、遠い昔の事件ではなく、群馬県では、今に至るまで農用地土壌汚染対策指定区域が増え続けていると聞く。

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 ところで公害の定義は、ウィキペディアによると


『公害(こうがい)とは、経済合理性の追求を目的とした社会・経済活動によって、環境が破壊されることにより生じる、社会的災害である。
環境基本法(1993年)による「公害」の定義は、『環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む)に係る被害が生ずること』をいう。
このほか広義の用法として、食品公害・薬品公害・交通公害・基地公害などもある。

 と書かれている。
しかし、これを読むと、公害をもたらす側について、「……事業活動その他の人の活動に伴って……」とあるが、行政の責任、いわば国家の責任に言及していない。
足尾鉱毒事件、そして水俣病問題、また、つい最近の薬害C型肝炎にしても、国の責任について絶対に認めようとしない姿勢は、今も昔も全く変わらない。

昨年、アメリカで大量のペットフードリコール問題が起きた。
犬や猫の飼い主さんはそのニュースを聞いて唖然としてしまったのではないだろうか。
市販のペットフードを与えている飼い主さんは、どこのメーカーのフードがいいのだろうかと、その選択に余念がないところ、リコール問題によって、メーカーごとに袋は違っても、つまるところ中身は同じだということが発覚してしまったのだ。
OEM( Original Equipment Manufacturing )という生産方式で、簡単に言うならば、ドッグフードの生産設備を持つ会社が、多くのメーカーのペットフードの製造を請け負っていて、メーカーごとに違う袋に詰め込んでいるのだ。つまり、ペットフード版サブプライムローンというところかもしれない。

そもそも、ペットフードは、食品残滓物を合理的に処分する方法として生み出された産物で、米国農務省の肝いりによって、犬や猫たちの食性を無視し、余剰穀物や飼育中に死んでしまった家畜動物のなどをベースとして、何とかこれでも生きていけるのではないかという「犬及び猫の栄養要求量」データを作り上げた。
肉は人間様が食べるものだからお前たちにはあげないよ、というわけだ。今では、大事な食糧を燃料にまでしてしまうような時代に立ち至ったが、これからのペットフードには何を使い始めるのだろうか。
このようなペットフードによって、多くの犬や猫たちが死んだことでリコール問題に発展したのだが、死なないまでも、犬や猫たちの健康被害は蔓延していて、これはまさしく、ペットにとっての食害問題であり、公害といって過言ではない。

このようなことどもに考えを廻らしながら、渡良瀬渓谷を見下ろす缶詰工場で、一個一個の缶に馬肉を詰めながら、どんなときでも身体に悪い食餌はあげないよ!
そして、ヨダレが出るほど美味しい馬肉の缶詰を作ってやるぞと、疲れも忘れ取り組んでいる。

080616c1~~ 追記 ~~
この原稿を書き終えようとしていた時、「the N.P.A」の村上さんから電話があり、今年の、全日本のディスクドッグ大会ファイナルで優勝したとの報告があった。日本チャンピオンになり、11月の世界大会へ向けて頑張るとのことだ。
100CLUBのスタート時から一緒に生馬肉食に取り組んできた同士としてこんなに嬉しいことはない。
良かった!良かった!

 
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